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分かり合えなくてもいいんだ。なぜ分かり合えないかが分かりさえすれば…
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光文社 古典新訳文庫 感想文コンクール2008
大学生・一般部門 優秀賞 作品

過去を見てこそ実現する平和

課題図書:『永遠平和のために/啓蒙とは何か』
加藤彩夏(同志社大学)

人類が未だかつて得たことのないものの一つに、「永遠平和」がある。世界中を苦境に陥れた二つの大戦後も、各地で起こっている民族紛争、テロなどにより、全ての人類に平和が訪れた日は一度もない。平和の模索が人類最大の課題であるということは、口に出さずとも誰もが感じていることであろう。それを達成するために、人が進むべき道を示そうとした人物がいた。哲学者、イマニュエル・カントである。彼は、自身が二百年以上も前に書き残した『永遠平和のために』という論文に、平和の実現のために、人が今まさに必要としていることを記している。

 国家はなぜ戦争を起こすのか。この単純だが最も難儀な質問に、カントは、独自の思想を用いて返答する。彼によれば、そもそも国家とは、平和を求めるがために戦争を起こすものなのである。平和を願い敵と争い、その戦争に困憊しまた平和を求めるというのが、カントの展開する国家論である。このように国家とは、矛盾するプロセスの上に成り立っているものであり、この不合理性をなくさずして平和を実現することは不可能であると、カントは主張した。

 カントの主張に説得力があり、今でも多くの人々に影響を与え続けているのは、彼が、当然と思われる事柄の中から、人が見落としがちな要素を見つけているからだろう。そして、それはこの永遠平和を願う論文の中にも、顕著に表れている。例えば彼は、将来戦争を起こしうる事態を作ることを、徹底的になくすことを呼びかけているが、その一例として停戦条約を平和条約とみなしてはならないとしている。戦争を止めるために結ばれる停戦条約が、何故平和条約となりえないのか。その疑問は、停戦条約とはあくまで一時的に戦争を止めるものにすぎないという事実を考えれば、解決される。争いを止めるために必要だと思われていた停戦条約は、実は逆に戦争を長期化させ、敵対心を募らせていくものだということに、カントは気付いたのだ。

 また、自国を守るために置かれる常備軍はその国家より優位に立とうとした他国を軍拡させるため、かえって各国家を危険にさらすと、カントは主張する。このように、国家が平和や安全を願って構築した制度や事柄は、時として、国家を破滅させてしまう恐れがある。カントは、そうした人類の根本的な誤りから見つめ直し、それを改めていくことを志したのだった。一般論として人が考える道に囚われず、真に歩むべき道を示すことを常に試みていたのが、彼が偉大な哲学者であった一つの証拠である。

 さらにカントは、平和実現のための、いくつかの確定条項を記している。その中に、国際法の執行機関は、諸国家が連合することによって形成される、平和連盟に置かれるべきである、というものがあるが、これは現代の国際連合の思想と一致している。また彼は、戦争の開始の有無を国民に委ねる共和制こそが、平和を実現しうる政治体制だとしているが、この「政治を国民の判断に委ねる」という考えは、現代の民主主義の基盤となっている。これは、カントの主張がいかに現実性を持ったものであったかを示し、彼の思想が現代の政治体制に結びついている事実を表わしている。カントの偉大な平和推進論に、二百年以上もの時の隔たりなどは、敵ではなかった。それは多くの人々に理解され、現在でも適用されていることからもわかる。

 確かに、カントがこのような草案を作ったにも関わらず、未だに平和は実現されていない。自国で戦争が起こっていないがために、世界も平和であると誤認してしまう人は大勢いるが、現在、平和が達成されているとは、到底考えにくい。各国での争いは絶え間なく続き、人々が戦争の恐怖から逃れた日はない。しかしこれは、カントの草案が誤りであったということを、示しているのではない。むしろ彼の草案は、徐々に世界に受け入れられ、再現されつつある。国際連合は、すでに実現されている。そして、彼の「国家間貿易が戦争を起こしにくくする」という主張は、世界中で議論され、実際に採用されている。無論、この世界に存在する全ての国家が、カントの意見を実現するのは、不可能かもしれない。しかし彼の草案は、現世の政治体制を作り、平和構築に大いに貢献しているのである。

 カントの平和推進論は、二百年以上も昔に書かれたものであるが、決して過去の産物ではない。世界が平和を実現するための道しるべは、彼の主張の中にある。この書物は、過去の世界を知るためではなく、現在の世界を理解するために是非とも読んでほしい。
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